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卒業研究の紹介

 情報科学科の研究室で行われた卒業研究のうち,興味深い結果が得られた以下の8件の研究について紹介します.


■ 情報システム分野

■ ネットワークシステム分野

ピアノ演奏CG自動生成システムに関する研究

巳波研究室 釘本望美

図1
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 ピアノはすぐに修得できるものではなく,練習に長い時間と労力が必要となります.そのため,現在さまざまなピアノの教育支援システムが提供されています.このような中で,模範演奏の動作をCGアニメーション映像として表示させるシステムが実現すれば,ピアノの教育支援システムとしても活用することができるのではないかと考えました.また,現在CGアニメーション映像を作成するにはコストの負担が大きく,多大な手間と時間を必要とします.この問題に対して,楽譜データから自動的にCGアニメーションを作成することができれば,これらのコストと手間の大幅な削減にもつながります.本研究の目的は,モーションキャプチャシステムで演奏データを取ることではなく,入力として与えられた楽譜から演奏のCGアニメーションまでをすべて自動的に生成する方法を確立することです.そこで,ピアノの運指決定法を最適化問題として定式化し,その運指結果を基づいてピアノCGアニメーションを生成するシステムを開発しました.

図2
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 運指決定法では,音は鍵盤(88鍵)とし,音の長さや装飾音などは考慮せず,右手の単音のみを考えます.入力された楽譜のデータより,現在の音から次に演奏する音の間にコストを与えます.このコストの値は手指の構造や負担に基づいて予め決定しておきます.そのコストの和が最小となる結果が手指への負担が最小となると考えられるので,その指の割り当てを最適な運指と定義します.この運指決定法の有効性を確認するために数曲の実験を行ったところ,手指にとくに負担をかけることなく演奏することができる運指を得ることができました.図1に運指結果の例を示します.

 このようにして得た運指結果と,運指と対応させた3次元位置座標と音の長さの値より,アニメーションを生成します.音は,入力された楽譜データの音の長さから音を鳴らします.アニメーションと音を組み合わせることによって,CGアニメーションとして描画します(図2).開発したシステムでは,このようにしてピアノの楽譜データから自動的にピアノCGアニメーションを作成しています.

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優先度付き三次元パッキング問題

茨木研究室 峰松大介

 長期の海外旅行に行くときは,かなり多くの荷物を持っていくでしょう.そんなときに荷物を詰め込むことがうまい人は「こんなにスーツケースに入るの?」と思わされてしまう量の荷物をいとも簡単に入れてしまいます.あこがれますね.

表1
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 これが運送業界の話になるとさらに重要です.場合によっては荷物ひとつのためにトラックをもう一台出さないといけなくなったり,タンカーによる海上輸送だとタンカーをもう一台出すことにつながります.

 ところがいつもできる限り多くの荷物を詰め込めばいいというわけでもなさそうです.一番最初の配送先で下ろす荷物がトラックの一番奥なら,荷物を下ろすときの手間は相当なものです.また海外旅行に行くのにパスポートをスーツケースの一番奥に入れていたら・・・空港ですべての荷物をぶちまけることになります.周りからすごい目線を浴びながら・・・

 そこで「この荷物は最初に取り出さないといけない」とか「この荷物を取り出すのは○番目でもよい」といったように,荷物を取り出す順番に優先度をつけた詰め込み問題を考えました.それが優先度付き三次元パッキング問題です.

図2
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 では実際に例をひとつ見てみましょう.表1に示した荷物の集まりを幅180,高さ150,深さ170の入れ物に詰め込んだ結果が以下のとおりです.この図2では優先度1の荷物が赤,2が黄,3が緑,4が青,5が紫となっています.図2を見てわかるとおり,優先度の高いものから順番に取り出せるようになっています.

 本研究では一般的な三次元パッキング問題の解法をベースとして,それを優先度つきのものに改良し,数十個単位の荷物で線形時間内に解くことができました.

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ベイジアンネットワークによる化学物質の毒性発現機構の研究

岡田研究室 山口一歩

山口一歩

図1
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 現在,生産された化学物質に対して動物実験を行い,毒性学的性状を明確化することが法律で定められています.化学物質の毒性は,動物試験によって得られた膨大な実測試験データを基に評価します.これには既に知られている物質の作用や生体内における代謝に関する知識等による総合的な判断をすることが必須です.これは科学者にとって非常に大変な仕事です(図1).

図2
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 本研究の目的は,化学物質の毒性を既知の周辺情報を基に,科学者が的確かつ効率よく評価できるシステムの構築です.そのために,化学物質の血液・肝臓への毒性を対象としたベイジアンネットワークモデルを構築しました.

 ベイジアンネットワークとは,確率的な因果関係をモデル化するグラフィカルモデリングの一つです.この手法は,因果関係の有無を有向グラフで表し,その強さを条件付確率表で表現します.このモデルに対して,ある証拠となる事実を与えると,確率推論を行い,事後確率を計算します(図2).

 しかし,一般的にベイジアンネットワークモデルを構築する際には,その因果関係に関する専門家であっても,適切な条件付確率の入力を行うことは非常に困難であるという問題があります.

 本研究においても,化学物質の毒性という生体内で起こる不確かな現象を扱っているため,同様の問題が発生します.そこで,この問題を解決するために,矛盾解析と感度解析を用いました.矛盾解析とは,推論を行った結果から,条件付確率表で表現される前提知識と整合する合理的なpath(図3)と,前提知識と矛盾する非合理的なpath(図4)を検出する分析手法です.また,感度解析とは,どの条件付確率を更新すれば,もっともらしい値を入力できるかを計算する分析手法です.これらの手法を用いることによって,化学物質の毒性を科学者にとってわかりやすいように表現することができました.

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図3
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図4
図4
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信念改竄によるばれない嘘の生成

高橋研究室 奥野健一

奥野健一

 嘘はどうしてばれてしまうのでしょうか.その原因は,嘘をつく状況によって様々ですが,一般には,嘘をつく本人の身体反応や態度(目が泳ぐ,汗をかく,等)か,嘘をつく相手の信じている事と嘘との間に生じる矛盾か,にあると考えられます.前者については「平常心を保つ」等の対処法しかありませんので,本研究では後者のような原因についてのみ扱うことにしました.そして,「(後者のような原因では)ばれない嘘の条件」を形式的(機械的に扱うことが可能な様式)に記述し,つきたい嘘がばれない嘘の条件を満たすようにするためのアルゴリズムを提案しました.

図1
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 本研究では,数理論理学における論理式を現実世界の表現方法として用い,そのようにして表現された世界を前提として議論を行うことにしました.これにより,「ばれない嘘の条件は何であるか」という問題を「世界がどのようであれば,その嘘が嘘であると相手に推論されないか」という問題に置き換えました.この問題に対する本研究の答え(直感的な表現)は「相手が,その嘘を自身の信念(その人が信じている全ての事柄からなる集合)に追加しても信念内で矛盾が生じない,あるいは論理的には矛盾が生じていてもその矛盾に気付かない」で,これを本研究でのばれない嘘の条件としました.

図2
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 この条件を形式的に記述するためには,「気付く」ということを曖昧性を含まない形で定義する必要がありました.気付くかどうかはその人間の推論に依存する問題です.本研究では,推論は信念に対する追加・除去に伴って行われるものとし,その種類は演繹とアブダクション(図2)のみを考慮しました.ただし,推論の深さには制限を設けました.また,説得力の観点から,「嘘が嘘でないことを背理法によって証明できなければならない」という制約も加えました.

 つきたい嘘がばれない嘘の条件を満たすようにするためには世界内の相手の信念部分を改竄すればよいので,提案したアルゴリズムは信念改竄アルゴリズムとなりました.

 本研究の成果は,情報保護の方法への導入や,エンターテインメント分野で利用する等,様々な応用が考えられます.

2007年6月 人工知能学会全国大会にて発表

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Web評判サイトからの領域依存評価表現の抽出

北村研究室 池奥渉太

図1
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 近年では,ブログやクチコミ情報サイトといったWeb評判サイトでユーザが自由に情報を発信できます.そこには,製品やサービスについての評判情報が多数存在しており,マーケティングなどで利用できるため,企業からも注目されています.しかし,必要な評判情報を得るためには,全ての文章一つ一つに目を通さなければならず,評判情報を自動的に抽出することが必要になります.

 従来の評判情報の抽出は,「良い」や「気に入る」といった,どのような対象領域でも使える汎用的な評価表現を用いて抽出を行っていました.しかし宿泊施設を例に挙げると,「ゆっくりできた」や「くつろげた」といった対象領域に依存した評価表現も多く存在しています.そこで,本研究では領域依存評価表現を自動的に抽出することを目的としました.

 抽出方法は,評価の理由に着目して,理由を手がかりに領域依存評価表現の抽出を行いました.例えば,汎用的な「良い」という評価表現を含む,「部屋も広く良かった.」という文章から「部屋が広い」という評価理由を抽出します.次に,その抽出した「部屋が広い」という理由を用いて,別の「部屋も広くゆっくりできました.」という文章から「ゆっくりできた」を領域依存評価表現として抽出します.

 実際に,「楽天トラベル」から宿泊施設に関する領域依存評価表現の抽出を行ったところ,「ゆっくり休める」や「寝心地がよい」,「定宿にしたい」といった領域依存評価表現を得ることが出来ました.また,抽出した領域依存評価表現を用いて新しく評価理由を抽出し,理由抽出→評価表現抽出→理由抽出→・・・,と繰り返すことで更に広い範囲の領域依存評価表現が抽出できるのではないかと考えています.

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パス遮蔽相関を考慮したパス遮蔽モデルの検討

多賀研究室 緒方大悟

図1
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 近年,音楽/動画配信などの大容量データ通信が行われるようになり,携帯端末や無線LANでも有線接続のように高速な通信が求められています.それを可能にするためにMIMOと呼ばれる技術が研究されています.MIMOとは送信局,受信局の双方で複数のアンテナ素子を用い,マルチパス環境特有の複数の空間的固別パスを利用し同時に複数のデータを伝送する技術です.このMIMOシステムを設計するためには,電波が人体によって遮られることによる効果を考慮する必要があります.そのため,屋内環境で人が移動することでどのような確率でパスを遮るかというモデルが作成されています.しかしながら,似たような場所を通ってくるパスがどの程度似通った遮蔽を受けるかというモデル化は行われていません.

図2
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 そこで本研究では,屋内無線LAN環境を想定し,各伝搬パスが人の移動によって遮られるというコンピュータシミュレーションを行い.その結果から,各伝搬パスがどの程度の相関(どの程度似通っているか)をもった遮蔽を受けるかをモデル化しました.

図3
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 本研究ではレイトレーシングという手法を用い(図1),伝搬パス(電波の通り道)を求め,そこに人体をランダムに移動させることで各伝搬パス間の遮蔽相関を求めると,図2に示すような相関を持っていることが判明しました.そこで,この相関を表現するために図3のような正規分布で近似した相関モデルを作成しました.乱数シミュレーションによって各伝搬パスに遮蔽を与えた場合に,本研究で作成した相関を各伝搬パスに与えることができるようになると,より現実に近いシミュレーションが行えるようになります.この結果はMIMOシステムの性能を向上させるための研究開発に役立ちます.


電子情報通信学会2008年総合大会にて発表(2008年3月)

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テンプレートと整合性検証に基づくSemantic Wikiの開発

北村研究室 河本 健作

河本健作

 次世代インターネット技術として期待されているSemantic Webという技術があります.この技術を用いることで,コンピュータによる自動的な情報の収集や検索が正確かつ効率的に行えるようになります.しかし,Semantic Web情報を生成して発信するためには専門的な構文知識が必要とされてしまうために,専門家以外の,特に初心者でも簡単に利用することができる仕組みが必要になると考えられます.

図1
KawaWiki
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 そこで本研究では,Webサイトを共同で制作するためのシステムとして知られるWikiWikiWebの枠組みを,Semantic Web情報の生成のために利用することを検討しました.そして,このSemantic Wikiのプロトタイプ(試験版)としてKawaWikiというシステムを制作しています.

 KawaWikiでは,専門的な知識を持ったユーザが記述したテンプレート(雛形)に対して,一般のユーザが値やリソースなどの“具体的なデータ”を穴埋めすることで,Semantic Web情報の生成が行われます.

図2
KawaWiki
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 Wikiシステムでは不特定多数の人が自由な編集活動を行うことができます.しかし,編集されるうちにWiki上に存在する情報の信頼性が低下してしまったり,情報に矛盾が生じてしまう場合も見られます.そこで,本研究では情報の整合性を維持する方法について検討し,KawaWikiに実装しました.

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P2Pネットワークにおける次数・直径の小さいロバストなオーバレイネットワーク構築法

巳波研究室 佐々木 裕介

 現在のインターネット上の多くのアプリケーションは,Webサービスなどのように,サービスを提供する側のコンピュータ(サーバ)とサービスを受ける側のコンピュータ(クライアント)が繋がるというクライアント/サーバ型が中心です.しかし,最近ではP2P(Peer-to-Peer; ピア・ツー・ピア)という,それぞれのコンピュータがクライアントとサーバの両方の役割を果たしながら繋がり合うアプリケーションが注目を浴びています.

図1
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 このP2Pの技術はファイル共有などに使われていることで有名ですが,ファイル共有だけに限らず,IP電話(インターネットを利用した電話)やコンテンツ(音楽や映像など)配信,グループウェア(グループ内で知識や情報を共有するためのもの)などに広く応用されています.

 このP2Pのネットワークは,実際のネットワーク上に仮想的にオーバレイネットワークというものを構築することで実現されます(図1).このネットワークで相手のコンピュータとやり取りをするためには,まず,やり取りをしたい相手のコンピュータをネットワーク上で見つけなければなりません.

図2
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 本研究の目的は,相手のコンピュータを効率よく見つけるために,P2Pのネットワークを相手のコンピュータを見つけやすく構築することです.このためには最も離れている2台のコンピュータ間の距離が小さくなるようにネットワークを構築すればよいと考えられます(図2).しかし,これでは1台のコンピュータから他のコンピュータへ出ている線の数が多すぎます.この線の数が多いとコンピュータの負担が大きくなってしまいます.したがって,構築するネットワークは,最も離れている2台のコンピュータ間の距離を小さくし,かつ各コンピュータから出ている線の数を少なくすることが求められます.

図3
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 そこで本研究では,その要求を満たすde Bruijnグラフという特殊な形状を利用してネットワークを構築することとしています(図3).研究では,それをさらに発展させて,ネットワークが変化しても要求を満たすように対応できる方式を提案しました.

2006年5月 電子情報通信学会の情報ネットワーク研究会にて発表

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