トップ 学生のページ情報科学科レポート

情報科学科レポート



研究室紹介(巳波研究室)

 現代社会を支える基盤技術となっている「情報」という概念は,それだけで閉じているものではありません.自然科学やアート・エンターテインメント,社会・経済活動など,異分野と融合することで新しい可能性を広げ,これまでにない文化を創り出す可能性のあるものです.巳波研究室では,「情報」から育ついろいろな芽を,さらに広い領域へ伸ばすことを視野に入れ,研究に取り組んでいます.


巳波: 情報科学は様々な分野と融合することで可能性が広がるので,私の研究室では,基本的に何でもやっています.ただし,数理的な観点をベースとすること,という最低限のルールだけがあります.例えば,通信ネットワークを効率よく制御する方法なども,数学的にとらえ,解決を探っています.また,他大学や企業との共同研究にも積極的に取り組んでおり,研究を円滑に進められるよう,ネットワーク回線を使った会議システムも導入しています.
平田: 本当に,いろんな研究がありますよね.私自身は,人間システム工学科の長田研究室との共同研究でピアノ演奏CG自動生成技術の開発に取り組み,モーションキャプチャを使って,従来は難しかったピアノ演奏時の指の動きをリアルに再現することに成功しました.この技術は「のだめカンタービレ フィナーレ」のピアノ演奏シーンに使われています.
巳波: 平田さんは研究室に配属されたばかりの頃からこのプロジェクトに携わってきましたが,非常に熱心に取り組み,驚くほどの速さで知識を吸収し,プロジェクトを牽引する中心メンバーとなってくれましたね.「ピアノ演奏CGを作るのと数理的な観点って,関係あるの?」と疑問に思う方もいるでしょうが,このシステムを動かすための処理手順(アルゴリズム)やプログラム開発には,数理工学が活かされているのです.
平田: そうですね.単純に結果だけを求めるのではなく,常に「最適化」を意識しています.モーションキャプチャで計測しただけのデータには,ノイズが多数含まれており,従来はその除去やデータが欠けている部分の補正といった修正作業に多大な時間と労力が生じていまいた.今回はそのムダを省き,よりリアルなアニメーションを簡単に作れるシステムを開発しました.
巳波: 企業の生産管理システムやエレベーターの制御システムなど,幅広い応用・実践の場がありますが,みなさんには理論も実践も両方やってほしいと願っています.とても多くのことを学ぶ必要がありますが,だからこそ視野が大きく広がり,新しい発見ができ,研究の醍醐味を味わえるのです.

右:情報科学科教授 巳波弘佳
左:情報科学科4年生 平田純也 (徳島 県立城北高校出身)

ページトップへ ▲

研究室紹介(早藤研究室)

 2007年,アメリカンフットボールの大学日本一を決める甲子園ボウルに出場したKG. FIGHTERSは,残り時間3秒で劇的な逆転勝利を収め,優勝を手にしました.その勝利を影から支えていたのが,アメリカンフットボールの戦略解析システム.このシステムは,19 57年に関学中学部に入学して以来,一ファンとしてアメリカンフットボールを愛し続けてきた早藤教授の研究室で開発したものです.


早藤: 今,日本では米国製のアメフトの戦略解析システムしか市販されていません.しかし,関学のチームとアメリカのチームでは戦略の立て方が異なります.そこで私たちは,関学の,関学による,関学のフットボールのために完全にカスタマイズされたシステムを開発するプロジェクトを立ち上げました.
辻村: アメフトは「フィールド上のチェス」と呼ばれるほど戦略に左右されるスポーツです.このプロジェクトの目的は,I Tによって作戦立案の効率化と精度の向上を図り,FIGHTERSの勝利に貢献すること.ミーティングを重ね,意見交換を行いながらシステムを開発し,その保守や運用も手がけています.ずっとチームに関わって研究しているので,その勝利を望む気持ちはFIGHTERSの一員と同等.1分1秒の緊迫感を味わっています.このような心境を味わえる環境を与えていただいたことに,とても感謝しています.
早藤: 相手の戦略・戦術を読み切るのは簡単なことではありません .しかし,このシステムを用いて監督やコーチ陣は相手の戦略を読みきり,選手諸君は極限までにプレーを磨き上げる.その結果の勝利には我々システムの開発チームもFIGHTERSと共に大いなる醍醐味が味わえます.この研究は,私たちと総合政策学部の中條研究室とFIGHTERSとの理文武融合型プロジェクトとして進められた点にも特徴があります.その中で辻村君は,開発チームの責任者としてリーダーシップを発揮していますね.
辻村: 私は体育会系で,論理的に物事を進めたり,じっと研究をしたり,数式を扱うことは不得意だと思っています.でもこのプロジェクトを通じて修得した論理的な思考様式,私の持ち味である情熱的な部分やフットワークの軽いところ,また人の先頭に立ってリーダーシップを発揮するところなどが,社会で活躍する上でとても重要であることを知りました.これらの経験は,これから社会に出る私にとって大切なことだと感じています.
早藤: 辻村君は少年野球時代から高校野球時代まで投手を張り,チームを引っ張ってきましたね.「スポーツで勝つ」という意識は,「研究で良い成果を出す」という意識と同じです.野球と同様に,人並み以上に努力すれば,良い研究成果を出せるということを私たちは信じています

右:情報科学科 早藤 貴範 教授
左:理工学研究科 博士課程前期課程 情報科学専攻2年生 辻村 佳則 (三重・県立津高校出身)

ページトップへ ▲

研究室紹介(北村研究室)

 北村研究室では「言語グリッドによる異文化交流支援」に取り組んでいます.言語グリッドとは,インターネットを通じてさまざまな機械翻訳システムを連携させることで,英語,韓国語,中国語,フランス語,ドイツ語,スペイン語など多様な言語サービスを提供するシステム.関学だけでなく,他大学や独立行政法人情報通信研究機構,NPOが協力して開発しています.


北村: 私たちは言語グリッドを用いて,世界最大の教育ネットワーク「iEARN」における多国間子ども会議の支援や,病院における外国人医療受付支援などを行っています.世界を結びつけるインターネットを利用して,実際に世界の人々の役に立つ研究をしているところが面白いですね.
池田: 僕も社会の役に立つサービスを開発したいと思ったので,北村先生の研究室に入りました.コンピュータとインターネットという巨大なメディアを組み合わせることで,さまざまなサービスが生まれ,今までできなかったことがある日突然できるようになるなど,無限の可能性を持っている分野だと思います.
北村: インターネットがいくら発達しても,世界中の人々が自由にコミュニケーションするためには言葉の壁を乗り越えなければいけません.さまざまな機械翻訳システムや用例変換システムを組み合わせることにより,それをいくらかでも乗り越えるような支援ができるのではないかと考えています.
池田: そうですね.近年の国際化によって多くの外国人が日本に訪れるようになっていますが,彼らが急病になった場合,症状を的確に伝えられず,適切な医療が受けられないという現状があります.多言語の会話集を作成することで,円滑なコミュニケーションがとれるのではないかと思い,この研究を始めました.
北村: 池田君は台湾のアメリカンスクール出身なので,英語は堪能ですね.言語グリッドの研究をするには,コンピュータやネットワークの知識,外国語の能力,そして異文化を理解する能力が必要です.その意味では,池田君はその素養を十分に備えていると思います.
池田: ありがとうございます.多言語の会話集を作成するためには,まずベースとなる日本語の医療用例が必要になるので,現在は病院における受付から会計まで,すべての用例を効率的かつ偏りがないように収集するシステムを開発しています.
北村: 情報科学科をめざすみなさんも,IT機器をうまく使いこなすだけでなく,新しいシステムを作り出し,それを社会に役立てることに挑戦してほしいと思います.インターネットは社会に直接つながっているメディアです.それを利用した面白いシステム作りに,みなさんと共に取り組みたいと願っています.

右:情報科学科教授 北村泰彦
左:情報科学科4年生 池田佳泰 (台湾 Lincoln American School出身)

ページトップへ ▲

研究室紹介(高橋研究室)

正確さ,臨機応変さを実現する人工知能を開発中.

高橋和子教授

情報科学科 高橋 和子教授

 人間の知的振舞いをコンピュータにさせる仕組み,人工知能が私の専門です.そのひとつ,電車やエレベータでの事故を未然に防ぐための制御システムは,現在特に企業で注目されていますが,代数や論理をベースとすることで正確な動きを保証します.さらに,コンピュータに状況に応じた的確な判断をさせるような臨機応変なメカニズムも研究中.この研究が進めば,互いに話し合ってルートを分散することで道路の混雑を避ける「交渉カーナビ」も夢ではありません.この分野は夢物語ばかりが語られがちですが,今できることを見極め,社会にどう活かすかを考える発想も大切です.また,研究は簡単に答えが見つかるものほど,その成果も少ないもの.だからこそ,研究に大きな夢を抱く奥野くんのチャレンジに期待しています.

論理的で柔軟な人間の脳をコンピュータ上に実現したい.

奥野健一

理工学研究科博士課程前期課程
情報科学専攻 奥野 健一
和歌山・近畿大学附属和歌山高校出身

 人間の知能に匹敵するシステムをコンピュータ上に実現することが,僕の夢です.その出発点として,論理的思考の核である「推論」について研究しています.たとえば,機械の故障原因を究明する際,人間は多くの情報をもとにさまざまな仮説を立て,さらに経験値も駆使することで,ひとつの見解に到達できます.そんな論理的で柔軟な人間の情報処理をコンピュータに取り込めないか,現在模索中です.そのために,情報科学以外の哲学や心理学も勉強中.完成すれば,設計者の予想もしえなかった知的動作も期待できる点が,先が読めない研究の励みとなります.研究室で指導してくださる高橋先生は,とてもパワフルな先生.ご家庭も大切にしながら,研究にも一切手を抜かない点を,ゼミ生みんなが尊敬しています.

ページトップへ ▲

教員の声

新しい薬の開発などに役立つデータマイニングの技術

岡田 孝 教授 研究風景

情報科学科 岡田 孝 教授

 分子や生命の世界では,理論的に予測できないことがほとんどであり,これまでの実験データから類推して他の場合を予測します.しかし,莫大な量のデータから本当に必要な情報だけを取り出すのは至難の業です.そこで、大量のデータを解析し,その中に潜む有用な情報を抽出する「データマイニング」の出番となります.例えば新しい薬を開発するときに,科学者がたくさんの化合物の構造を見ても,どのような特徴を持つ化合物が薬となり,反対にどのようなものが薬にならないか,分りません.データマイニングの技術を使って薬になるような化合物の特徴を取り出せば,その結果が灯台の役割を果たし,データの海の中を進む科学者は,目的とする港への進路を見失わずに進んでいくことができるのです.

携帯やデジカメなどを動かすシステムソフトウェアを開発

石浦 菜岐佐 教授 パソコン,基盤

情報科学科 石浦 菜岐佐 教授

 携帯電話やデジカメ,テレビ,家電・・・これらを動かしているのは,内部の超小型コンピュータシステムです.超小型といっても,高性能のマイクロコンピュータに気が遠くなるような規模のソフトウェアが搭載されています.私が研究しているのは,このようなシステムを作るためのシステムソフトウェアの開発.企業と共同で研究したり,世の中に公開したりします.自分たちの作ったプログラムを実際に使ってもらえるのは,プレッシャーでもあり楽しみでもあります.全く同じ機能のプログラムでも,書き方に美しい/汚い,上手い/下手があります.一見小さなことに思えますが,大規模なソフトウェアを作るときは,これが極めて重要なこと.この違いや重要性を理解すると,ソフトウェア開発の面白さが分かってくると思います.

学生の声

KG.FIGHTERSを勝利に導くために開発された戦略解析システム

情報科学科 4年生 古東 正多

 早藤研究室では,関学のアメリカンフットボールチームKG.FIGHTERSと総合政策学部の中條ゼミとの共同研究で,「FITERS2」というアメフトの戦略解析システムを開発しました.このシステムはすでに実用化され,KG.FIGHTERSの勝利に大きく貢献しましたが,いくつかの改善点も挙げられたので,現在はその改良に取り組んでいます.

新しいWikiであるKawaWikiの情報の整合性をより高めるために

情報科学科 4年生 川崎 琢磨

 誰もがブラウザから簡単にWebページの作成・編集などを行えるWiki.従来のWikiで は人間同士がコンテンツを編集しますが,Semantic WikiではエージェントがWiki上の情報の意味を理解でき,ユーザとの協調作業や,編集への参加による整合性の維持が可能になります.Semanticを利用して北村研究室で開発したKawaWikiの精度を高めるのが,私の研究です.

電子マネー取引をもっと安全で快適なものにする プログラムを検証

情報科学科 4年生 世登 恵梨

 電子マネー取引の流れを実際にプログラム化して,SPINというモデル検査ツールを使って,正しい動きをしているか,安全性が保障できるかといったことを確かめています.例えば,どんな詐欺があるか考え,自分の作ったプログラムが詐欺に気づき,犯罪者を割り出してくれるのかを検証.実際の問題を想定して,実用的な研究に取り組んでいます.

ページトップへ ▲

卒業生の声

技術と知識、そして論理的思考が仕事の幅を広げてくれる

川添 麻衣子
マイクロソフト株式会社(08年 情報科学専攻 修了)

 関学では,より積極的に商品を売り込むような説得支援エージェントの開発に取り組み,プログラミングの技術や情報科学の知識はもちろん,現状分析から問題の発見,解決策およびその有用性の評価というプロセスをしっかり習得できました.ここで培ったロジカルシンキングは,お客様への提案やコンサルティングを実施するために必要な戦略的思考の基礎となっています.

スピードと信頼性を兼ね備えた通信ネットワークを構築

澁川 友紀
西日本電信電話株式会社(07年 情報科学科 卒業)

 通信ネットワークの大規模化にともない,耐故障設計や故障からの迅速な復旧の必要性が高まっています.そこで,大学では通信ネットワークにおける経路制御の研究開発を行い,企業との共同研究にも取り組みました.現在は,NTT西日本でスピードと信頼性を兼ね備えた光回線設備の設計を担当.大学の研究で身につけた知識や技術,そして応用力を活かすことができています.

ページトップへ ▲

研究設備

視線追跡装置

視線追跡装置


 眼球から反射する赤外線光を計測して,ユーザがコンピュータ画面のどの位置を見ているのかを測定する装置.Webページのデザイン評価などに活用できる.

データマイニング用高速計算システム

データマイニング用高速計算システム


 大量のデータを解析し,特徴的なパターンを発見するためには,大量の計算が不可欠.このシステムで並列計算を行えば,実用的な時間内に結果を得られる.

並列計算機と車両認知画面

並列計算機と車両認知画面


 車載カメラで撮影した映像から車両の走行環境を認識し,その情報を高速処理するための並列計算機.写真の例は,後方走行車両の認識を行ったもの.

ページトップへ ▲

こんな研究をしています

モバイル通信のチャネルモデル研究

モバイル通信のチャネルモデル研究


 将来の高速・広帯域モバイル通信技術の研究開発に資するため,電波が複雑な現実環境を通って受信されるまでのチャネル特性のモデル化を行っている.

アメリカンフットボール戦略解析システム

アメリカンフットボール戦略解析システム


 正々堂々と戦って勝つために,選手は体を鍛え,指導者は戦略を立てる.そして早藤研究室は戦略解析システムを提供して,チームの勝利に貢献する.

ページトップへ ▲