近年、大規模な自然災害が急増しています。南海トラフ地震も近い将来に発生すると言われており、沿岸地域では巨大な津波に備える必要があります。防災対策は事前/応急/事後の段階に分けられますが、当研究室では、被害を最小化するために、事前対策の中でも特に重要な「避難」の問題に着目した応用研究に取り組んでいます。
多くの自治体で具体的な避難計画を立てていますが、そのポイントは、できるだけ多くの避難対象者が可能な限り速やかかつ安全に、避難場所へと移動できること。これは、まさしく最適化問題です。速やかな避難を実現する経路を求めるのはネットワーク最適化問題であり、避難場所の立地や割り当てを求めるのは最適施設配置問題として考えられます。
しかし避難計画の難しさには、災害の種類・大きさ・場所・時間・季節など災害発生の不確定性に加え、人口分布の不確定性があります。大都市では曜日や時間帯によって人口分布が大きく異なるため非常に多くのシナリオを用意して避難計画を立てる必要があり、高速計算が求められます。そこでビッグデータを扱えるアルゴリズムの開発が重要な意味を持つのです。
もう一つの応用分野として、建築デザインなどに活かされる組合せ剛性理論があります。これは構造物の安定性についてグラフ理論を用いて議論しようとする分野で、たんぱく質を構成する原子の結合をフレームワークとしてモデル化して挙動解明に役立てることもでき、最終的には、ある病気の発現に関連するたんぱく質の機能の活性化を抑制する薬剤の開発へと利用することが可能となります。
災害が起きたとき、避難者は最短経路を通って避難しようとしますが、多くの人が同じルートを使うと渋滞が発生し、かえって避難が遅れる場合があります。そこで、実際の避難経路を道路網を表す「グラフ」というモデルに対応させ、避難者が同じ道に密集しないで、なおかつ最速に避難できるような経路を発見しようとしています。この研究は避難訓練やハザードマップの作成に役立ち、災害時の犠牲者を最小限に抑えられる可能性があるので、大きなやりがいを感じています。
都市道路網をネットワークとして、道路の幅や交差点間の距離、分布する住民の数、避難所の位置、避難所の収容人数などを数学的にモデル化し、ネットワークフローアルゴリズムを用いて、最速の避難スケジュールを求める問題。
一般的に用いられるソフトウエアの処理能力を超えたサイズのデータの集まりで、急速に集積されつつある。その中身は、SNSやインターネット上の文書などのデータ、天文学・遺伝子データなどの自然科学分野で集積されたデータなどである。
2次元平面または3次元空間内の伸び縮みのしない棒材と棒材をつなぐ回転可能なジョイントからなる、2次元または3次元フレームワークが剛堅であるかどうかを組合せ論や離散数学を用いて調べる理論のこと。