Prof. Shigeto R. Nishitani's website - 方程式と恒等式 Diff

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結城浩のライトノベル的な啓蒙書「数学ガール」の中に,方程式と恒等式について,主人公が後輩に教えている場面があります.
!!「数学ガール」pp.30-31.
「じゃあ,文字と数式に関連した話題で,方程式と恒等式の話をしよう.テトラちゃんは,こういう方程式を解いたことがあるよね」
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x-1=0
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「ええ.あります.x=1ですね.」

「うん.x-1=0という方程式はそれで解けた.では,次の式は?」
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2(x-1)=2x-2
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「はい.式を整理して解いてみます」
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2(x-1)=2x-2 問題の式
2x-2=2x-2 左辺を展開した
2x-2x-2+2=0 右辺を左辺に移項した
0=0 左辺を計算した
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「あれ? 0=0になっちゃいました」

「実はこの2(x-1)=2x-2は方程式ではなくて恒等式なんだ.左辺2(x-1)を展開すると,右辺2x-2になるよね.つまり,この式はどんな数をxに代入しても成り立っている.恒に等しい式だから,これを恒等式という.厳密にはxについての恒等式」

「方程式と恒等式は違うんですか」

「違う.方程式は<ある数をxに入れると,この式は成り立つ>と主張している.

一方,恒等式は<どんな数をxに入れても,この式は成り立つ>と主張している.

ずいぶん違うよね.

方程式から自然に出てくるのは「この式を成り立たせる<ある数>を求めよ」という問題だ.

これは方程式を解く問題になる.

一方,恒等式から自然に出てくるのは「この式が<どんな数>でも成り立つのは本当か?」という問題だ.

これは恒等式を証明するという問題になる.」

「な.なるほど...そんな違い,意識していませんでした」

「うん.普通は意識しない.でも,意識した方がいい.公式として出てくる等式は,ほとんど恒等式だね」

「式を見れば,すぐに方程式か恒等式かはわかるんですか」

「すぐわかるときもあれば,わからないときもある.文脈から判断しなければならないときもある.つまり,この等式を書いた人は,どんなつもりでー方程式と恒等式のどっちのつもりでー書いたのかを読み取る必要がある」

「書いた人...」

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#結城浩著,「数学ガール」,(ソフトバンククリエイティブ, 2007), pp.30-31.