色聴とは                                     >English


 色聴とは「音を聴くと,色が見える」という現象のことで共感覚の 一つです.色聴は共感覚の中では一般的なタイプのものですが,色聴自体にもさまざまなタイプのものが存在することが分かってい ます.その中でも有名なものとしては,「単語や文字(の発音)を聴くと,色が見える」というタイプのものと,ドレミファソラシドなどの「音階や調性音楽を聴くと,色が見える 」というタイプのものです.前者は例えば,「A」という文字や「つくえ」という単語の発音に対して色を感じとります.また後者では,作曲家のスクリャービンの例が有名ですが「ハ長調(C)は赤,イ長調(A)は緑」といったように,音階・調性に対して色を感じとります.色聴に注目した科学的研究例は少なく,未だ発展段階にあると言っ ていいのですが,特に後者に関しては知見が不足しており,そのメカニズムについてはよく分かっていないというのが現状です.私たちの研究室では,心理実験やfMRIという脳機能の可視化装置を使って,この問題に取り組んでいます.

※参考文献 ジョン・ハリソン 『共感覚』 新曜社(2006)

 

 

共感覚とは


 共感覚とは,『1つの物理的刺激によって複数の感覚知覚が引き起こされる現象』のことです.人間の感覚は「視覚」「聴覚」「嗅覚」「味覚」「触覚(体性感覚)」の「五感」など があります.そして「音は聴覚」「光は視覚」というように,それぞれ異なった刺激に対し各感覚が反応します.しかし,音や光に対しそれに対応した感覚以外の知覚が起こる能力 『共感覚』を持った人々が約2000人に1人の割合で存在しています.

表:五感とそれに対応する物理的刺激
視覚(目)
聴覚(耳)
嗅覚(鼻) 匂い
味覚(舌)
触覚(肌など) 接触


 共感覚についての研究は100年以上前から行われており,その能力の解明が行われています.全ての人間は乳幼児の頃に共感覚を持っており,成長するにつれてその能力は徐々に失われていくと考えられています.しかし,ある特定の人々(共感覚者)においてはその能力は失われること がなく,成長しても,なおその能力を保持しつづけたために,共感覚の現象が意識に上ってくると考えられます.共感覚の能力を持つ人の男女比は女性の方が圧倒的に多く確認されています.共感覚を持つ人の親や親類に同じ能力を持った人がいるパターンが多く見られています.これらより,共感覚は遺伝的でかつ女性に優位なものと推測されています.
 共感覚の現象にはいくつかの共通項が存在します.一つは共感覚の知覚は,個人間で違いはあるけれども,個人では 再現性があります.同じ刺激に対して同じ知覚が引き起こされるようで,それは年をとっても変わらないようです. 物心ついた頃にはすでに現象を保持していて,大体の人は人と違うということに気づき,共感覚現象を自覚するようになるようです.
  様々なパターンが共感覚には存在します.代表的なものとして「音を聴くと色が見える」「味に形を感じる」といったのが挙げられます.とくに「音を聴くと色が見える」現象は「色聴」呼ばれ, 共感覚現象の中でもっとも保持している人が多いとされています.

※参考文献 ジョン・ハリソン 『共感覚』 新曜社(2006)
      リチャード・E・シトーウィック 『共感覚者の驚くべき日常』 草思社(1993)

 

 

その他

研究に沿った内容をいくつか紹介します.


脳機能局在
 生物にとって脳は行動,感情,思考などの全てをつかさどる部分です.このことはずいぶん昔から広く知られていましたが,その仕組みについては近年まで知られていませんでした.つい最近まで,「人間は脳を右(左)半分しか使っていない」というような言葉を聴いたことがあると思います.しかし脳の解明,脳活動計測法の発達などにより,人間の脳は量的に使うものではなく,機能ごとで使う部位が分かれていることが判明され ました.大脳は大きく「前頭葉」「後頭葉」「頭頂葉」「側頭葉」の4つの部分に分けることができます.現在わかっている段階として,前頭葉は高次認知処理,後頭葉は視覚,頭頂葉は体性感覚,側頭葉は聴覚をつかさどる機能が存在する部分として知られています.各部位も細かく機能ごとにわけられているが,まだ解明されていない部分も多く存在しています.

fMRI
 fMRIは"functional Magnetic Resonance Imaging"「機能的核磁気共鳴画像法」の略で,"functional"は「機能的」を意味しており,MRI装置を用いて生体機能(特に脳機能)を計測する方法です.強力な磁場の中に人体をおいて,そこに電波を放つと水および脂肪の構成原始である水素原子核が反応し共鳴します.その原理を用いて得られた信号データを画像化することにより,人体の断層画像を得る方法を使ったのがMRI装置です.fMRIはこのMRI装置を使って脳の機能を計測することを目的に作られました.

fMRIの原理(やや難)
 生物の血液中には酸素と結合したオキシヘモグロビン(Oxy-Hb)と結合していないヘモグロビン(Deoxy-Hb)の2つがあります.酸素は人間にとってエネルギーとして使われます.つまり,神経細胞が活動を行った時にその細胞は酸素を必要とし,血液のオキシヘモグロビンを求めます.酸素を細胞に与えたヘモグロビンはデオキシヘモグロビンになるため,血中のオキシ・デオキシヘモグロビンの比率は変化します.しかし,オキシヘモグロビンが減ると同時にそれを防ぐため血流の量も変化し,その部分にたくさんのオキシヘモグロビンが送られるため結果としてデオキシヘモグロビンが相対的に減少する状態になります.このデオキシヘモグロビンの構造には磁場を不均一にさせる性質を持ちます.その特性より,MRI装置でデオキシヘモグロビンを通ったMRIの信号は低下する結果が得られます.この現象により,活動があった神経細胞の部分ではデオキシヘモグロビンが減少するため,MRI信号はその領域だけ上昇します.これよりMRI装置で脳機能に関連した計測を行うことができる仕組みになっています.これはBOLD効果(blood oxygenation level dependent efect)といいます.
 脳機能を計測する手段として,EEG,SPECT,PETなどが用いられていました.fMRIはこれらと比較すると,薬剤や放射性物質などの使用がないため人体に害がなく(非侵襲的)検査を行うことが可能で,また数秒単位の時間分解能,全頭1mm以下毎の空間分解能(解像度)と平均的に計測能力が優れています.しかしfMRIは拘束性が高く計測中はほとんど動けないという制約があります.また,fMRIは断層画像による脳活動計測機器なので1回の全頭の撮像に何十枚もの断層画像を撮る必要があります.1枚の断層画像を取る間,他の断層画像を撮ることが不可能なので,全頭1周分の撮像には時間的限界が存在しています.現在1周2〜3秒という時間分解能でしか脳計測を行うことができない状況です.
 最近,「近赤外線」を用いてオキシ・デオキシヘモグロビンを計測するfNIRSという計測機器が誕生しました.これは頭に装置をかぶるもので動き回ることができ拘束性が低く,0.1秒以下の計測を実現でき時間分解能にもfMRIよりも優れた機能を持ってい ます.しかしNIRSは頭の表面(大脳皮質)しか計れない上に3cm毎の空間分解能しかもたないので,計測目的やMRIの広い普及率,計測結果の扱い方などの理由によりfMRIは現在能計測として現在最も広く使われている機器になっています.