概要
本研究では,理想的電子現金方式をモデル化し,その性質について証明支援系
Isabelle/HOL を用いた検証を行った.理想的電子現金方式とは,「完全情報化」
「安全性」「プライバシー」「オフライン性」「譲渡可能性」「分割利用可能性」
の 6 条件を満足する電子現金プロトコルである.ここでは,プロトコルレベル
とデータ構造レベルに分けてモデル化を行い,安全性と分割利用可能性について
の検証を行った.
プロトコルレベルでは,Isabelle/HOL においてプロトコルの安全性証明に広く
用いられる帰納的アプローチを利用した.電子現金プロトコルの安全性には,支
払い金額などの量的な情報が絡んでおり,モデル化の際にはそれらを具体的な
データとして与える必要がある.本研究では,具体的なデータを含んだモデルに
ついて,帰納的アプローチの適用を試みることにより,このアプローチの限界を
示唆する結果を得た.
一方データ構造レベルでは,自然数と二分木という異なる帰納構造に対し,帰納
的な変換と,両者の間の性質についての帰納的な証明を与えた.ここでは中間
データとして二進数を利用したが,一般に異なる帰納スキームにまたがる性質を
扱う際にも,問題の性質に適した中間データを用意することによって,証明を帰
納的推論によって導ける可能性を示すことができた.
これらの結果により,Isabelle/HOL の応用範囲の拡大への貢献が期待できる.
発表論文
``Formalization of Data Conversion for Inductive Proof,''
Tunisia-Japan Workshop on Symbolic Computation in Software Science (SCSS 2009),
pp.135-150, September, 2009.
``電子現金の分割利用可能性の形式化と帰納的証明,''
情報処理学会第74回プログラミング研究会発表資料, June, 2009.
``異なる帰納スキームにまたがる性質の定理証明手法,''
日本ソフトウェア科学会第26回大会, September, 2009.
``帰納的アプローチに基づく理想的電子現金方式のモデル化および証明支援系 Isabelle/HOL による安全性の証明,''
情報処理学会第78回プログラミング研究会発表資料, March, 2010.