概要
本研究は定性空間推論における空間の表現方法であるPLCA表現についてのもので
ある.
定性空間推論は定性推論の手法を空間について応用したものであり,それは計算
機に空間的な問題を解かせるのに適したものである.定性空間推論の研究では領
域の重なりや接し方を対象としたものが多く,本論文で提案するPLCA表現も接し
方を対象としたものである.
一般に計算機で空間を扱う場合では座標,形状など空間を構成するすべての情報
が必要である.そして接し方の情報が必要になったときはそのつど衝突判定など
を行い,座標,形状の情報から再計算をする必要があった.衝突判定の計算量は
大きく,接し方のみを取り扱った問題ではこの計算量を無視できない.しかし接
し方のみを取り扱った表現方法がないため,衝突判定を何度も行っている機構は
多い.
PLCA表現は座標や形状の情報を必要とせず接し方のみを完全に記述する.このた
め接し方のみを取り扱う問題では座標や形状の情報に関わることなく解くことが
出来る.既存の定性空間推論の手法は,接し方を区別するための記述が困難であっ
たり実装上の問題がある.PLCA表現は二次元図形の接し方を点,線,閉路,範囲
に分解し,集合,列,構造体を用いて表現することで簡便で十分な記述力を提供
し,実装を可能にする.本論文では2つのPLCA表現の等価性を定義し,等価でな
いもの同士を互いに変換するアルゴリズムを提案しシステムとして実装する.
また,PLCA表現と二次元平面上の図形との対応を示し,ある条件を満たすPLCA表
現から二次元平面上の図形を描くアルゴリズムを提案する.これによって,PLCA
表現が二次元平面上の図形データに対する記号表現として妥当であることを示す.
さらに,PLCA表現は1階述語論理による表現と対応することから,専用のプログ
ラムを用意することなく,既存のデータベースと容易につなぐことができる.応
用例として論理型プログラミング言語であるPrologのデータベースとしてPLCA表
現を与え,Prologの推論機構を利用した推論システムを構築する.
以上により,PLCA表現は定性的に領域を取り扱う新しい枠組みと考えられ,これ
に基づく手法やアルゴリズムの開発が期待できる.
発表論文
"DLCS: 空間の定性的な表現方法,"
日本ソフトウェア科学会第21回大会, September, 2004.
"定性空間推論の新しい枠組DLCSとその上での操作,"
情報処理学会第52回プログラミング研究会発表資料, January, 2005.
"定性空間推論: PCLA表現と推論機構,"
日本ソフトウェア科学会第22回大会, September, 2005.
"A Framework for Qualitative Spatial Reasoning Based on Connection
Patterns of Regions,"
IJCAI-05 Workshop on Spatial and Temporal Reasoning, pp.57--62,
August, 2005.
"Representation and Reasoning for Spatial Data Based on the Connection
Patterns of Regions,"
Conference on Spatial Information Theory (Poster), September, 2005.
"A Qualitative Treatment of Spatial Data,"
The 17th IEEE International Conference on Tools with Artificial
Intelligence, pp.539--548, November, 2005.
"定性空間表現の二次元平面への埋め込みについて,"
電子情報通信学会研究報告, pp.9--15, COMP2006-11,May, 2006.
"On Embedding a Qualitative Representation in a Two-Dimensional Plane,"
IJCAI-07 Workshop on Spatial and Temporal Reasoning, pp.101-109,
January, 2007.
"The Qualitative Treatment of Spatial Data,"
International Journal on Artificial Intelligent Tools,
Vol.16, No.4, pp.661--682, 2007.
"On Embedding a Qualitative Representation in a Two-Dimensional Plane,"
Spatial Cognition and Computation, Vol.8, No.1-2, pp.4-26, April, 2008.