音楽と脳
A 身体で音を感じる時の脳活動


 この研究では先ず、和太鼓演奏を擬似的に愉しむために,ドラムパッドへの拍打と同時にヘッドフォンに和太鼓音を呈示するシステムを提案しました.
 そして,このシステムの和太鼓音の印象を向上させる方法として拍打と同時に「腹部に振動刺激」を与えることを考案し、その有効性を検討しました. また、"演奏" という行為に注目し,このシステムにおける「拍打動作」の効果を検討しました.
 Fig. 1に実験の様子と,実験に使用した機材を図示します.
 Fig. 2に和太鼓音に対する印象評定の結果を示します.この図に示されているように,振動刺激と拍打の組み合わせによって,和太鼓音の印象評定が変化しました.振動刺激付与によって印象評定が向上すること,拍打動作が印象評定の向上に重要な役割を担っていること,が分かります.
 Fig. 3に前頭前野の脳活動の結果を示します.印象評定の結果と同様に,振動刺激と拍打の組み合わせによって,前頭前野の脳活動が高まりました.この脳活動の変化は,印象評定という主観的な評価の変化に対する客観的な証拠を与えるものと考えられます.
 

drum_instr

Fig. 1. a) 実験の様子,b) 前頭部に装着したプローブの配置,c) 加振器と加振器を腹部に装着するためのベルト.
 国際10-20法のFPzを基準として,前頭部にNIRS計測用プローブ(照射用10個,検出用8個)を配置した..和太鼓音と同時に2個の加振器 (直径27 mm × 高さ61 mm) によって腹部に振動を与えた.



psych_assess

Fig. 2. 4つの条件における5つの質問項目に対する評定値の結果 (n = 14).条件名の記号は各々,S: 音呈示,V: 腹部への振動刺激,B: 拍打動作,を示す.
 SBV条件は "拍打動作あり" かつ "振動刺激あり" の条件,SB条件は "拍打動作のみ" の条件,SV条件は "振動刺激のみ" の条件,S条件は "拍打動作なし" かつ "振動刺激なし" の条件である.
 SBV条件とSB条件においては,被験者がバチによってドラムパッドを拍打した時に和太鼓音が呈示された.SV条件とS条件においては,被験者がキーボードのキーを人差し指で押した時に和太鼓音が呈示された.


Drum_NIRS_Topo

Fig. 3. 4つの条件における前頭前野の酸素化ヘモグロビンの濃度変化.条件の記号はFig. 2 に同じ.前頭部に配置された計測チャンネルの計測値を線形補完したものである.
 赤色が脳活動の上昇(酸素化ヘモグロビン濃度の上昇)を示し,青色が脳活動の低下(酸素化ヘモグロビン濃度の低下)を示す.