これらの他にもさまざまな条件があり、学校によって独特の条件もあります。中には実現困難な条件も含まれることもあります。これらの条件をすべて満たすような時間割を考えなければなりません。莫大な時間割の組合せの中から、すべての条件を満たす時間割の割当てを見つけ出すことはとても困難な作業です。すべての組合せを一から順に調べ上げるとなると、とてつもない時間をかけることになってしまいます。
図2
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そこで、メタヒューリスティクスという近似的に解を求める手法を用いて、厳密には最も良い解ではなくても、精度の高い解をできるだけ速く求めることができるようにします。このメタヒューリスティクスを用いて、授業や教室などのデータが与えられたときに、条件を満たすような時間割を自動的に求めるプログラムを作成しました。
関西学院大学理工学部の授業時間割を参考にプログラムを実行した結果、実際の時間割と同じように、条件を満たす時間割の割当てが得られました。
図3
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卒業研究では、時間割を自動で作成するプログラムのほかに、授業数や教室数などを入力したときにどれくらいの割合で実行できる時間割が作成できるかを解析するプログラムも作成しました。これを用いれば、教室の数はどれくらい必要なのか、先生はいくつ授業を担当すればいいのか、などの大よその数を知ることができます。
多賀研究室 柏木 一平
無線による情報通信の分野は更なる発展が期待されています。より高速に音楽や画像がやり取りできる携帯電話、有線による接続に匹敵する能力を持つ無線LANなどを実現するため、最先端技術を用いて多彩な研究がなされています。しかし、無線による通信は有線による通信とは異なり、様々な要因で電波が遮断されて通信が不安定になることがあります。無線で安定した通信を行うためには、細かな設計が必要不可欠です。とりわけ、次世代の高速無線通信を担う技術であるMIMOと呼ばれる方式を効果的に用いるには、電波が人体によって遮蔽された時の効果を正しく把握して設計することが重要です。
そこで本研究では、屋内で電波を送受信する場合(無線LANなど)を想定し、人が移動することでどのような確率で電波を遮るか、という問題をコンピュータシミュレーションによって求め、モデルを作成しました。
図1
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本研究では、レイトレーシングと呼ばれる方法を用いてシミュレーションを行いました。レイトレーシング法とは、電波が送信アンテナから受信アンテナに到る経路(伝搬パス)を近似的に求める方法であり、無線通信のシミュレーションのためにしばしば用いられます(図1)。このレイトレーシングによって伝搬パスを求め、また人体をランダムに移動させて、人体が伝搬パスを遮る確率と、遮っている時間、頻度等を求め、統計的にモデル化しました(図2)。
図2
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さらに、シミュレーションの妥当性を評価するため、実際に電波を放射して測定実験を行いました。本学理工学部内の一教室に電波の送信アンテナと受信アンテナを設置し、その周囲を複数人に歩いてもらい、シミュレーションと同様の結果が得られるかどうかを確かめました。その結果、シミュレーションによるモデルが妥当であると結論し、学会等で報告しました。
人体による伝搬パス遮蔽に関してこれまで報告されているモデルに比べ、本研究で紹介した新しいモデルを用いるならば、以前より現実に近い環境でシミュレーションを行い、無線通信の性能を評価することが可能になります。そのため、MIMO方式の性能を最大限に引き出すためにどのような工夫を加える必要があるかを検討する際に役立ちます。
巳波研究室 佐々木 裕介
現在のインターネット上の多くのアプリケーションは,Webサービスなどのように,サービスを提供する側のコンピュータ(サーバ)とサービスを受ける側のコンピュータ(クライアント)が繋がるというクライアント/サーバ型が中心です.しかし,最近ではP2P(Peer-to-Peer; ピア・ツー・ピア)という,それぞれのコンピュータがクライアントとサーバの両方の役割を果たしながら繋がり合うアプリケーションが注目を浴びています.
図1
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このP2Pの技術はファイル共有などに使われていることで有名ですが,ファイル共有だけに限らず,IP電話(インターネットを利用した電話)やコンテンツ(音楽や映像など)配信,グループウェア(グループ内で知識や情報を共有するためのもの)などに広く応用されています.
このP2Pのネットワークは,実際のネットワーク上に仮想的にオーバレイネットワークというものを構築することで実現されます(図1).このネットワークで相手のコンピュータとやり取りをするためには,まず,やり取りをしたい相手のコンピュータをネットワーク上で見つけなければなりません.
図2
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本研究の目的は,相手のコンピュータを効率よく見つけるために,P2Pのネットワークを相手のコンピュータを見つけやすく構築することです.このためには最も離れている2台のコンピュータ間の距離が小さくなるようにネットワークを構築すればよいと考えられます(図2).しかし,これでは1台のコンピュータから他のコンピュータへ出ている線の数が多すぎます.この線の数が多いとコンピュータの負担が大きくなってしまいます.したがって,構築するネットワークは,最も離れている2台のコンピュータ間の距離を小さくし,かつ各コンピュータから出ている線の数を少なくすることが求められます.
図3
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そこで本研究では,その要求を満たすde Bruijnグラフという特殊な形状を利用してネットワークを構築することとしています(図3).研究では,それをさらに発展させて,ネットワークが変化しても要求を満たすように対応できる方式を提案しました.
2006年5月 電子情報通信学会の情報ネットワーク研究会にて発表
北村研究室 河本 健作
次世代インターネット技術として期待されているSemantic Webという技術があります.この技術を用いることで,コンピュータによる自動的な情報の収集や検索が正確かつ効率的に行えるようになります.しかし,Semantic Web情報を生成して発信するためには専門的な構文知識が必要とされてしまうために,専門家以外の,特に初心者でも簡単に利用することができる仕組みが必要になると考えられます.
図1
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そこで本研究では,Webサイトを共同で制作するためのシステムとして知られるWikiWikiWebの枠組みを,Semantic Web情報の生成のために利用することを検討しました.そして,このSemantic Wikiのプロトタイプ(試験版)としてKawaWikiというシステムを制作しています.
KawaWikiでは,専門的な知識を持ったユーザが記述したテンプレート(雛形)に対して,一般のユーザが値やリソースなどの“具体的なデータ”を穴埋めすることで,Semantic Web情報の生成が行われます.
図2
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Wikiシステムでは不特定多数の人が自由な編集活動を行うことができます.しかし,編集されるうちにWiki上に存在する情報の信頼性が低下してしまったり,情報に矛盾が生じてしまう場合も見られます.そこで,本研究では情報の整合性を維持する方法について検討し,KawaWikiに実装しました.
長田研究室
「顔画像を用いた主観年齢推定システム」 宮本 直幸
「主観年齢推定システムにおける客観年齢の研究」 陣内 由美
人は初対面の相手と話をするとき「この人は何歳ぐらいかな?」と相手の年齢を気にします.しかし,あとから実年齢を聞くと「なんだ,もっと年上だと思ったのに・・」 と,必要以上にへりくだってしまった自分に気づくことがあります.そこで本研究では,この失敗が,相手の年齢を思い違ったのではなく,自分自身の年齢を誤っていたのではないかという仮定をもとに,自分がイメージする自分自身の年齢を“主観年齢”と定義して,顔画像を用いた主観年齢の推定方法を提案しました.
図1
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宮本は,主観年齢推定システムをJAVAで構築し,20歳から70歳の男女160名に対して実験を行いました.その結果,平均的には自分を実際より2歳ほど若く錯覚していることがわかりました.また,男女別で見ると,男性の方が女性より錯覚の度合いが大きいことや,年を取るにつれて,錯覚の度合いが小さくなり実年齢に近づくことも明らかになりました.陣内は,主観年齢を逆に利用して,人からイメージされる見かけの年齢(客観年齢)の研究を行いました.笑い顔と普通顔を比較すると,25〜 34歳では普通顔より笑い顔の方が若く見えるが,35〜44歳では逆の結果になることがわかりました.
図2
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つまり従来から信じられてきた「笑うと若く見える」ということが, 必ずしもあてはまらないことを示すことができました.これらの研究結果は,ヒューマンコンピュータインタラクションや感性情報処理の成果として,学会で高く評価され,国際会議を含む9件の学会発表を行いました.また新聞記事でも紹介されました.
宮本による国際会議(IEEE SMC2005)参加レポート
新聞記事(「私は若い」錯覚裏付け, 朝日新聞夕刊大阪版, 2005.4.17)
中津研究室 小岩 亮太
作品が演出者や鑑賞者などの働きかけによって変化する,双方向性を持つコンテンツは,インタラクティブコンテンツと呼ばれます.特に,ヒトとヒトを結びつける性質を持ったインタラクティブコンテンツを,ここでは,コミュニカブルインタラクティブコンテンツ(CIC)と呼んでいます.卒業研究では,CICの視点を持った2点の作品「桜華乱舞」と「DEEP AQUA」を制作しました.
このうち「DEEP AQUA」は,水を舞台に内側と外側のコミュニケーションをモチーフとしています.この作品では,カメラとタッチパネルディスプレイを入力装置として利用し,"水泡"を通じて,泳ぎ手と観察者のつながりを演出しています.泳ぎ手は,カメラの前で動くことによって,水泡を発生させ,観察者は,タッチパネルディスプレイにて,水泡を弾き消します.このように,水泡の発生と消失にはギミックが伴っています.これにより,泳ぎ手と観察者は,コラボレーションによって,映像と音響を奏でることになります.
「桜華乱舞」は,Leonardo 2005の第一位,「DEEP AQUA」の原型となった「AQUA」は,BACA-JA 2005のブロードアート部門の優秀賞に選ばれました.
中津研究室 織田 洋輔
図1
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2005年3月25日,愛知県でEXPO2005愛・地球博が開催されました。ここでは、公共・福祉・生活・エンタテインメントなどの分野で稼動するような目的を持ったロボットが、実用段階からプロトタイプ(試作・研究段階)の物まで多数出展され、ロボットが万博の大きな目玉の一つとして注目を集めました。このように、今後はロボットに求められる役割が,単純作業を繰り返すだけの産業用という用途だけでなく,我々の生活に密着した分野での使用が求められるようになると予想されます.(図1)
図2
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ロボットが社会で普及・活躍するには,既存のIT(Information Technology)製品、例えば携帯電話などとの機能の融合も重要な課題になると考えます。そこで本研究では、ホームタイプのペット型ロボット(図2)に対して携帯電話との接続機能を持たせ、そこから生まれる新しいコミュニケーションモデルを検討しました。
図3
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例えば、自分の家にあるロボットに対して遠くの場所から電話をかけます。ロボットにはカメラやマイクが搭載されています。ロボットカメラから入った映像や、マイクに入った音は、電話で見たり聞いたりすることができます。そしてその電話機からロボットの動きをコントロールすることによって(図3)、自分が遠くにいるにもかかわらず、自宅にあるロボットが自分のアバター(分身)のようになるわけです。(図4)
図4
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今回、ロボットの持つ身体性を生かすために、ノンバーバルコミュニケーション(身振りや手振りといったコミュニケーション)の中でも特に「姿勢」と「視線」に主軸を置いた動作を作成し、それらの動作を組み合わせたコミュニケーションモデルの評価実験を行い、良好な結果が得られました。