携帯電話のような電波を使う通信では、送信アンテナと受信アンテナの間に何もないのが理想的です。しかし実際には、送信アンテナから放射された電波はあらゆる方向に向かって広がり、建物の壁や地面で反射されたり、車や電柱や歩行者などで散乱されたりして、さまざまな経路(パス)を辿って受信アンテナに到達します。
このときの送信アンテナから受信アンテナまでの全てのパスを束ねた経路情報を通信チャネルと呼びますが、歩きながら携帯電話を使うと、このチャネルの状態が時間的に複雑に変動して不安定になり、情報伝達の障害となってきます。
通信チャネルの変動特性は未だ完全には解明されていませんが、目に見えない電波の挙動を計算機シミュレーションで解析することにより、これまでは未知であった情報伝達チャネルの特性が、おぼろげながら姿を現してきています。想像力を発揮して、その真の姿を解明・モデリングするプロセスは、フロンティア・スピリットに溢れた作業と言えます。
携帯電話などの基地局数、端末数は世界中で見ると数十億台にものぼり、その他のモバイル系システムも加えると、これからも増加し続けることは間違いありません。通信システムの簡素化やアンテナの電力抑制は、地球資源の効率的利用や地球温暖化の抑止につながります。
近年、機械対機械通信のサービスが提供されており、自動販売機などの在庫状況をデータ通信によってリアルタイムに知ることができるようになっています。しかし、その通信では、通信しやすい環境、通信しにくい環境があります。例えば、屋外から送信された電波は、屋内で障害物による影響を大きく受けます。その時の受信状況をシミュレーションで計算し、またそのシミュレーションを複数のモデルで再現しようとしています。
携帯電話や携帯情報端末(PDA)、ノートパソコンなど、携帯可能な情報・通信機器や移動体通信システムなどの総称。
もともと「mobile」には「可動性の、移動性の」という意味がある。
通信電波の経路情報。電波はどこにでも広がっていく反面、複雑な伝搬経路を辿った末に、方向・位相・偏波・時間遅延・レベル変動の異なる多数の波が受信点に到達する。そのため通信チャネルには、大きな場所的・時間的な変動が生じる。
モバイル通信におけるチャネル特性は未だ解明されていない部分が多くあり、通信品質の改善や通信容量の増大を図るには、電波の伝搬特性を明らかにすると共に、技術開発に利用できるチャネルモデリングをシステム開発よりも先に行う必要がある。