周囲がうるさい環境で会話をするとき、どうしますか?同じことを何度か繰り返したり、少し長くなっても分かりやすい言葉を使ったりすれば、相手に正しくメッセージを伝えられるでしょう。私たちが研究している「誤り訂正符号」の原理も同じ。伝えたいメッセージにいくらか余分な情報をつけて送ったり記録したりしています。
この誤り訂正符号は、CD、DVDやブルーレイディスクから信号を読み出すときに生じるノイズを取り除くために使われています。このため、多少の傷や汚れがついただけなら、余分につけ加えてあった情報を利用することで、映像や音楽を正確に再生することができるのです。
誤り訂正符号は、携帯電話での通話やメール送信のときにも使われています。電波を利用して信号を送っているときにノイズが乗ってしまうことは避けられませんが、それを修正して元の音声やメールの文面を復元してくれています。また、たとえ復元できなかったとしても、その事実を送信者に伝えることで、正しく届くまで何度も送りなおす仕組みになっています。電波の状態が悪いとき、受信に時間がかかるのもこれが理由のひとつになっています。
誤り訂正符号のほかにも、映像や音楽、テキスト文書などをできるだけ少ないデータ量で表現するための「データ圧縮」の技術、通信内容を盗聴する人がいたとしても秘密のメッセージの内容は漏れないようにするための「暗号・情報セキュリティ」技術についても研究しています。これらを扱う情報理論という分野において、数学的な理論が通信の性能向上に直結しているのです。
画像・映像・音楽などのコンテンツを送るときに重要なのは、いかに少ない情報量で効率良く送れるかということ。でも受け手としては、コンテンツは劣化していない方が良いですよね。そこで、できる限り劣化を小さく、かつより少ない情報量でデータを送るための方法ついて、数学を使って理論的に研究しています。少しでも効率の良い手法を考えられたときには達成感が得られますし、基礎理論の重要性も改めて認識できます。
メッセージをできるだけ速く相手に送りたい、できるだけ正しく相手に伝えたい、誰にもその内容を知られたくない。そんな要求に応えるのが「情報理論」。この理論は、"データ圧縮"や"誤り訂正符号"、"暗号"について、「どこまで圧縮できるか」「どれくらい強いノイズの中で情報を送れるか」「どれだけ安全に送れるか」という限界について明らかにすることで、快適な通信を実現するための基礎を与えてくれている。
クレジットカードの番号など、誰にも知られたくない情報を携帯電話で送るとき、盗み見されてしまうと困る…。そんなときには、暗号と呼ばれる技術を使って、送る前にメッセージを変換しておけば、たとえ通信内容を盗み見する人がいても、カード番号については情報を得られないようにすることができる。当研究室では、いくらでも計算をこなせる(現在はまだ存在していないような)万能なコンピュータを盗み見する人が持っていたとしても、秘密を守ることができる絶対的に安全な暗号方式を研究している。